| アフリカとアジアの断交が起こってしまった。直接の原因は、「アジアの理事が持つ4票がドイツへ流れたため、南アフリカでのW杯開催が幻となったため。」という何とも馬鹿げた理由だ。 確かにW杯の開催地決定に際しては、純粋にどこでやるべきか。 どこの準備(計画)が一番素晴らしいものかと争うものではなく、FIFA内部の権力闘争という面が強いことは否めない。だが、各大陸や各国を代表して選出されている理事たちは、権力というパワー力学によってのみ動くものではない。
今回、アジア選出の4理事がドイツへ投票したのは、2002年の出場枠をめぐり欧州がプレーオフ枠を提供してくれたからというのが表向きの理由となっている。
確かに、この点は大きな理由に違いない。しかし、アジア連盟は「恩返し」ということだけを理由にドイツを支持したのだろうか?
他にも理由は挙げられると思うが、一つの要因はやはり「金」しかないだろう。 2002年、2006年W杯の放映権は、ドイツのキルヒ・グループが握っていることは衆知の通り。
2006年の開催地決定の投票前、2002年の放映権について交渉が成立してした国はスペイン、ブラジルなどごくわずかであった。
しかし、投票後わずか1週間足らずで2002年の日本での放映権が120億円ほどで交渉成立したというのは、果たして偶然だろうか。
それまで日本では、当初250億円とも300億円ともいわれる莫大な金額に交渉が暗礁に乗り上げていたのだ。
このことを考えると、2006年誘致活動においても積極的な財政支援を行なっていたと推測されるキルヒ・グループに対してアジアが揺さ振りをかけたという見方も出来るであろう。
つまり、アジアがドイツへの票の見返りとして、アジア各国に対する放映権のディスカウントを迫ったということも考えられるのではないだろうか。
事実、日本の放映権交渉が決着を見るとすぐ、韓国やタイまでもが交渉の最終段階に入ったというのは、余りに話が出来過ぎている。
やはり、地元開催の大会におけるオンタイムでの高い視聴率が約束されたキルヒ・グループは、欧州開催であればこその収入も数多く切り開けることになる。 そうした算段を元に、ドイツが最後までアジア票の切り崩しにやっきになっていた時、様々な分野における金をちらつかせてアジアの票を取りまとめたであろうことは想像に難くない。例えば、代表監督(ウィズ監督)を出してもらい、若年層の強化でもイングランドと積極的交流のあったタイは、絶対的なイングランド支持と思われていたのだが、第1回目の投票からドイツに票を投じている。
キルヒ・グループにしてみれば、世界的規模でメディア・グループの再編が加速する中、莫大な人口を抱えるアジアを敵に回すより、味方としておきたいと思うのは当然である。 カナル・プリュスやニューズ・コーポレーションを軸とした囲い込みが激しさを増す状況下で、キルヒ・グループが多くのカードをドイツの懐に差し入れ、その力が有利に働いたとも言えるのではないだろうか。
しかし、もう一つ、純粋に南アフリカがW杯を開催するに相応しい国と言えたのだろうかという点も見逃してはならない。投票前、南アフリカ有利といわれていたのも、アベランジェ元会長の路線を継ぐブラッター会長がFIFIA内での基盤を固めるためにアフリカでの開催を支持したからに他ならない。 要するに、ブラッター会長にとっては、開催能力うんぬんではなく、アフリカ大陸の持つ票が権力基盤確立のために大切だったにすぎないのだ。
そして、冷静に南アフリカの現状を観察すると、その状況には不安を覚える人は多いだろう。 過去、貧困国であったチリや軍政下のアルゼンチンでも開催されてきたW杯だが、現在のように人類史上最大の祭典としてその規模を拡大している現代のW杯を、昔と同列に論ずることは出来ないのは、自明の理である。 当然、その開催に当たっては、スタジアムや交通機関、宿泊施設などのハード面はもちろんのこと、治安や政情不安といった社会的条件についても最大限考慮されるべきであろう。
具体的には、高い犯罪発生率や物価水準の安定などがあるし、エイズの問題もあろう。 南アフリカは、世界の中でも最もエイズ患者の比率が高い国なのである。 20代の30%近くがHIV陽性だという報告も目にする。長期間に渉って多くの国々の人間が訪れる中でエイズウイルスが多くの国に持ちかえられる可能性も多いに考えられる。ただ、エイズに関しては、自己責任の面が強いが、治安については、国家としての自浄能力だけではどうにもならない部分も多い。 南アフリカ代表でリーズ・UのDFラデベは「故郷は何にも代え難いものだけど自分の子供を安心して育てられる国ではないよ。」と言っている。 それ程、自国の治安に不安を感じる者がいるのに、お祭り気分の観光客が大挙して押しかけるのはエサをばらまくだけの行為なのかもしれないだろう。
つい先ごろ、W杯の各大陸間でのローテーション開催となることが決まったが、2010年に南アフリカがW杯に相応しい国となっているかは誰にも分からない。 そして、今回立候補していたモロッコを含め、再びW杯を巡る綱引きはアフリカ大陸を軸に行われることになりそうだが、W杯が肥大して極一部の国以外では受け入れることの出来ないものとなって行く可能性もあるのではないか。
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