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2004/07/16掲載
【コーチング】
 
「後ろの声は、神の声。」これは、プレーの現場でよく言われること。
団体競技の中でも、一際その流動性が高い競技であるサッカー。ピッチ上に22名もの選手がひしめき合い、瞬時に状況が変化して行く。
そのため、プレーをしながら出される声の重要性は、他のスポーツと比べても格段に大きなものとなる。

特に、現在のサッカーはプレーエリアが非常にコンパクトになっており、
時間もスペースも昔より遥かに狭まって来た。戦術的進化が進むにつれ、選手にはよりスピーディーな判断が要求され、ダイレクトプレーの比率と精度を高める必要性が不可欠とされている。

相手のプレッシャーに絶え間なくさらされるピッチの上。自らの視野に入って来る情報だけで的確な判断を下すことは、難しいものとなる。いくら事前に周囲の状況を確認していても、ボールを受けた際には状況は変化している。あらかじめイメージしていたプレーをしようにも、それが許されない環境となっていることは、決して少なくない。

その時、助けとなるのが周囲の声。味方の指示に従うことで、自分では見えていなかった敵を察知し、刻々と変化する状況に適応したプレーが選択可能となる。

かける声の種類は、実に様々。個々の危険を知らせるものから、細かなポジションの修正や守備範囲や動き出しのタイミングなど戦術的な要素を含むものまで、ありとあらゆる場面で声は飛び交う。

個々の持つイメージのずれを修正し、チームとしてのバランスを保つことで有機的な組織体となるべく各人が気を配る。
コーチングは、どのポジションの選手であっても必ず必要とされる基本的な能力に数えられるのである。

プロ選手といえども、ある程度の年齢になると、自分のプレーが技術的にレベルアップすることや、肉体的な向上は見込めなくなる。
その代わり、コーチングの能力というものは成熟して行く。
多くの経験を積むことによって多様な場面に適応した判断が可能となり、人を動かすことで自分を含む周りが楽になる方策を覚えて行く。

これは持って生まれたセンスによる部分もあるが、個々の意識付けから誰もが等しく学べる側面である。

1993年のW杯米国大会アジア地区最終予選。それまで候補にすら入っていなかった鹿島の大野俊三が代表入りした際、抜擢の理由として真っ先に挙げられたのが、「コーチングの能力」であった。

Jリーグ最初の戴冠者となった鹿島において、大野の存在は実に頼もしく、DFラインの核として素晴らしいプレーを披露していた。
それでも、大野は決して器用な選手ではなかった。足元の技術に秀でた訳ではなく、抜群の危機察知能力や巧みなカバーリングのセンスを備えていたのでもない。しかし、大きな声で常に指示を出し続け、チームとしての守備を第一に考えたスタイルは、自らの持つ高い対人能力に大きなプラス・アルファをもたらした。

コーチングの能力が特に重視されるのは、守備的なポジションにおいて。攻撃を担う選手は一瞬のひらめきや感覚に頼ったプレーが許されても、守備の選手にはそうした個人プレーは許されない。プレー経験のある人なら、前の方は要求を出すばかりで、サポートに関する声を出さないと感じたことも一度や二度ではないはず。

常に後方から怒号を響かせるタイプといえば、闘莉王や柱谷哲、ドゥンガといった辺りが思い浮かぶが、久保や柳沢など前線には寡黙な選手が多い。こうした傾向も、ポジションによって求められる素養が違うためである。

そして、コーチングに長けた選手がいると、チームが締まる。
優勝した横浜では中澤や松田がそうであるし、磐田なら藤田や服部、鈴木といった選手が、四方八方から大きな声を飛ばす。
マンチェスター・ユナイテッドのロイ・キーンやバイエルン・ミュンヘンのオリバー・カーンは、雑誌に写っている写真を見ても、口を開いているものが非常に多い。

強いチームには、必ず強いコーチングが出来る選手が存在する。
これは世界普遍のことである。中学・高校レベルであっても、強いチームの方が大きな声を出し合っている場合が多く、静かなチームはおしなべて弱い。ピッチ上でのコミニュケーションが、どれだけチームの出来を左右するか。エリートコースを歩んで来たプロ選手なら言わずとも分かっているはず。

だが、1stステージで14位という悲惨な成績に終わった柏は、そんな基本さえ忘れていたようだ。

5月に行われたナビスコカップ、FC東京戦。茂庭や浅利の声ばかりが響き渡り、ホームである柏の葉に黄色いユニフォームが声を枯らすような場面は最後まで見られなかった。
3ヶ月も勝っていないチームが声も出さずにプレーしていたのでは、勝利など見えて来るはずもない。当然のように情けない敗戦を喫した訳だが、柏には何故、声を出す選手さえいなかったのだろうか。

それは恐らく、普段の練習から意識的にやっていないから。
毎日やっていないものを週一度の公式戦でやってみせろと言っても、どだい無理な話。練習後の方が饒舌になる選手が揃っていても、何の役にも立ちはしない。

経験に乏しい若手が多いことも大人しいチームとなる一因ではあろうが、それは言い訳にすぎない。下平、明神、南、渡辺。
過去の良い時期を知るベテラン・中堅どころは、今季の苦しい時期にもピッチに立っていた。

だが、下平の声が時折響く程度で、腕章を巻く明神も絶えず声を出して
プレーすることはない。渡辺は昔から黙々と自分の仕事に専心するタイプだし、最後尾に構える南は声の質が遠くまで届きにくいものとなっている。

そして、経験豊富な波戸はイメージの共有を模索する段階にあり、永田も声の出る時間帯と、そうでない時の落差が激しい。

攻撃陣の不甲斐なさが目に付いた前半戦。後ろから見守る選手たちの的確な声がなかったために稚拙な攻めしか出来なかったという側面もあったことは間違いない。

背後から正しい選択肢を教え、意識を統一する動きを促すコーチング。
これは守備だけではなく、攻撃の際にも大切なこと。
それが、柏には皆無に近い状態であった。

確かに、玉田やゼ・ホベルトは聞く耳を持たないタイプ。
しかし、声のかけ方一つでチームの動き、個々の動きは劇的に変わるもの。信頼に足る的確なコーチングを出来る人間が多くいるほど、チームの流れはよどみないものへとなるはずである。

柏で最もコーチングに長けた選手といえば、間違いなく薩川。今月に入り、ようやく実戦に復帰したばかりであるが、その声の力は他の選手とは比べものにならない。一体、薩川のコーチングは何が違うのか。

まず、指示に具体性がある。誰がどうすべきかを分かり易くはっきりと伝えている。名前と要求する事項をしっかりと伝え、一連のプレーに係るコーチングを止めることがない。決して曖昧な表現は使わず、「ミョウ(明神)!左切れ」とか、「実(菅沼)、キープしてやれ。」と選択するプレーをハッキリと示し、フォローに関する声も忘れない。

次に、言い方は悪いが、薩川の要求はしつこい。気付かない場合、無視された場合でも、味方が自分の言う通りに動くまで幾度も声をかける。これでは、前線の選手でも聞こえないフリなど出来るはずがない。

強引なまでのリーダーシップ。フル代表候補の常連となった永田でも、まだこうした継続的コーチングは出来ていない。

そして、薩川のコーチングで特徴的なのが、絶妙のバランス感覚。
要するに、誉める部分と叱咤する部分がうまくミックスされているのだ。
良いプレーをした時には、「サンキュー。〜(名前)」と叫び、プレーの意図や気持ちが伝わって来た際には、成功とならなくとも「OK、OK。次、次。」。
若い選手が、薩川の声に救われた気持ちになったことも多いはず。

気の抜けたミスをした際には、名指しで「やられてんじゃねぇ!」と言い、接触プレーで倒れた選手にも「痛くなーい。立て、立て!」と言う厳しさを持つ薩川だが、飴とムチの使い分けは実に巧み。誰より薩川に認めてもらいたいと思う選手も、少なくないのではないか。

薩川が不在となったことで、守備面だけではなく、攻撃面にも影響が及んでいたことは確か。永田もかなり声が出るようにはなったが、90分を通じての持続性や、押し込まれた際の冷静さ、視野の広さは、まだまだ発展途上。薩川から学ぶべきものは多い。

薩川自身は、2ndステージ開幕に照準を合せており、復帰を待ち望むファンも数多い。近藤、永田、中澤、小林と若く才能ある選手たち。ピッチに立つ時間も長くはなってきたが、チームに芯を通すことの出来るパーソナリティとコーチング能力を持つのは、まだ柏には薩川しかいない。

とはいえ、コーチングという観点だけに絞れば、薩川の域に迫る可能性を持つ選手がいることも忘れてはならない。
過去2年を棒に振った中澤は、声だけでレギュラーを決めるのならば、真っ先に名前を書き込まれる選手。

新人時代、ピッチに立つとすぐに呼び捨て、命令口調で先輩たちを動かそうとしていた姿に驚きを覚えた人も多いはず。
選手間からも、図太い神経を持ったルーキーに面食らったようなコメントが出たことからしても、中澤のコーチングに対する意識というのは非常に高いレベルにあると言えよう。

南や近藤よりも声の通りは良く、90分間声を出し続けることも出来る。
ただ、経験不足な点は否めず、決定的なミスに絡むことが多い。

試合を重ねることで自身のプレーにも安定性が増してくれば、コーチングにも説得力が増すのであるが、如何せん、現在ではそこまでの信頼を得るに至っていない。

口だけの選手とならないためにも、改善すべき点は多い。
元来、スピードを備えた選手ではなく、読みで勝負しなければならないタイプ。細かなポジショニングや、アプローチにおける決断力などを高めて行く必要があるだろう。

それにしても、柏の選手は全体的に静か。練習でもベテランの声ばかりが響き渡り、中堅以下の選手たちが率先して盛り上げる様子は感じられない。北嶋、大野、砂川、萩村、渡辺光など20代半ばから後半に当たる選手を次々と放出したことで、中堅層が少ないのは仕方ないにしても、明神、平山、南といったあたりの牽引力が余りにも希薄。

20歳前後の若手は練習の合間や後だけが元気で、実際に声を必要と
される場面では目立つこともない。技術的才能では明らかに上であっても、見習うべきものを履き違えると伸びしろは小さくなってしまう。

本当に必要なものは何か。巧いだけの選手を集めることは簡単。
しかし、チームはそれだけでは成り立たない。苦しいときに頑張れる選手、集中を切らさない選手。逆境にも決して諦めない選手など、技術を超えた部分で評価される選手は決して少なくない。
そして、他の選手と大きな差が付いて行くのは、正にこの部分。

誰でも出来る、声を出すという行為。今の柏が最も追求すべき部分。
早野監督は、これを改善させることが出来るのか。
そして、選手たちは自ら変わって行けるのか。

ボトムラインの近くを彷徨うことが常態となって来た柏が脱皮するには、個々のコーチングの意識、コミニュケーションの重要性を骨身に感じることが必要最低条件となる。

著者:らいてぃー 

 
 
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